遺言

一緒に生きたい

ずっとずっと愛してる

うりちゃんはご飯の時間になってお母さんが席につくと決まって膝に乗ってごはんちょーだいする子だった

でも具合悪くなってからは、お母さんの横に座ったり、膝に座って食べたそうにしてても食べられなくてじっとごはんを見つめていたりした

 

12月帰った時はちょうどクリスマスのちょっと前で、テーブルの上に座ってるうりちゃんにチキンをちぎってあげた。ちょっとだけ食べて、あとは俯いたまま。その次の日はぶりの塩焼き。私の膝に乗って、たくさんちょうだいして、たくさん食べた。けどその次の日からは、物欲しそうに見てはいるものの、何も食べられなくなっちゃった。ご飯の時はテーブルの上でご飯をじっと見つめるだけで、それ以外はお水の前で座り込んで、思いだしたようにちょっとだけ飲んで、またずっとそこでじっとしていることが多かった。寒いだろうから毛布をかけて、時々ぬるま湯に替えてあげたりした。

おこたつに入ってるうりちゃんのお顔に顔を寄せると、いつものようにくるっと向きを変えて、お尻をくっつけてくる。今まで無かったけど、骨ばったうりちゃんのおしりからは、膿のような生臭い匂いがした。それから数日後には、抱っこしたあと、脚の皮膚と骨が近いところが濡れていて、匂いを嗅いだら傷んだものの匂いがして、もしかしたら骨が出ちゃってるんじゃないか、と不安になったけど、毛もあってそこまでは酷く見えなかったけど、自己免疫機能が落ちちゃったうりちゃんの脚は、生きながらに腐りつつあったのかな、と思う程だった。

妹に連絡したのはそれくらい。毎度の注射のため病院に連れて行ったら、これはうりちゃんの生きる力を少しだけ応援してあげる薬だから、これ以上負担をかけて病院に連れてこなくていいから、おうちで暖かくして、一緒にいてあげてくださいね。って言われたから。お母さんは電話しながら泣いていた。妹は、うりちゃんの苦しんでる姿を見たくない、死に目に会いたくないから、実家に帰りたくない。と言っていたらしいけれど、うりちゃんが生きてるの奇跡なんだよ、うりちゃんは待ってるよ、って言ったら、明日帰ると言って、翌日は、みんなでうりちゃんを囲んで寝た。

次の日は課題の撮影をしながらうりちゃんのお世話をした。うりちゃんはもううまく身体を支えることが出来なくて、おトイレが出来なくなっちゃったから、トイレまで支えてあげた。床で漏らしちゃった時、おしっこに血がまじっていた。

その日の夜、めずらしく、うりちゃんをおこたつに入れてあげると、にゃーと鳴いて出てきて、もう一回、あったかいからね、と入れてもまた顔を出して、せめて冷えないように、ともこもこのパジャマでくるんであげたらにゃー、とか細く鳴いて、それでも顔だけ出して、ずっと私のそばにいた。動くちからもほとんど無くて辛そうなのに、がんばっておこたつからでてきた姿を思い返すと、さいごが近いのをうりちゃんは解っていて、それでみんなの顔が見えるところにいたかったのかな、と、勝手な妄想をしたりする。

その夜、撫でながら寝て、でも眠気に耐えられず眠って少しして起きて撫ぜたら、もううりちゃんは温かくなくて、ひんやりしていた。冷静だった。何度か頭を撫でて、それから両脇に寝ていたお母さんと妹を起こした。二人とも見るなり大泣きして、けど私は泣かなかった。泣くべきじゃない、と思った。うりちゃんはもう鳴いたりごはんをちょーだいしたりねずみのおもちゃをおいかけたりはしないけど、うりちゃんが居なくなったわけじゃないからだ。

ただ、いままで一生懸命精一杯生きていてくれてありがとうね、私はずっとうりちゃんと一緒にいるからね。と言う感情だけが、つよく、こころの中を巡っていた。うりちゃんは発症してから、苦しいのか、よく眠れなかった。ずっと起きて撫でていたくても、気づいたら寝てしまって、はっと目覚めては、目を開けたままぼんやりしてるうりちゃんを撫でた。そうするとちょっとだけ目を細める時もあった。その時うりちゃんに約束したの、私の半分をうりちゃんにあげるから、私が寝てしまっても、いつかはなればなれになってもずっといっしょだからねって。だからうりちゃんはいなくならないし、私もずっと一緒にいるのだ。気持ちを受け入れ過去にするために泣いたり、同情で泣くのは筋違いだ。うりちゃんに生きて欲しいと願ったのは私たちで、その通りがんばってがんばって生きたうりちゃんを、今更可哀想と思うことは罪深いことだと思ったから、泣かなかった。

 

その後しばらくして、うりちゃんの骨をちょっとだけ食べた。余すことなくからだになるようによく噛んで飲み込んだ。うりちゃんが居たことを忘れないように、うりちゃんが頑張って生きたこと、痛みやつらさを、私は過去のことにしたくなかったから、目を背けたくなるような痛々しい姿も、「あの時は……」なんて穏やかに語ることなど無いように、一生なまの傷のまま、鮮烈に痛み続けるように……「どうか生きて欲しい」なんて独りよがりなエゴを押し付けた罪も、全部全部わすれないように

それでも…やっとうりちゃんがからだのいたみから解放されて、おなかいっぱいご飯を食べて、思う存分眠って、時々夢を見て、なんてことのない寝子らしい穏やかさに還れたのだと思うと、それだけは本当にさいわいだった。

ずっといっしょにいるからね。いつか私も、同じく大きな流れに還ったら、またこの手で、あのまあるい頭を撫ぜたいの だいすきな顎の下も、お腹も。顔を近づけたら、ちょっとだけめんどくさいなあって顔をしつつ、しょうがないなっておしりをくっつけられて、そのまま一緒に眠りたい