遺言

一緒に生きたい

移り逝く世界で冀う

あなたは私が死んでもずっと生きて、もっと生きて、そして、私と同じくらいの歳になったときに、色々とあったなと、深みのある人生を、振り返ってみてください。

 

夏を数えた立葵の姿はとうに潰え、合歓の花は茶色く沈み、ノウゼンカズラの頭は落ちて今ごろ海か

おばあちゃんが畑仕事をしているあいだに、あっという間に短い夏は死んだのだ、この草花のように

そうして、遠雷にかの人を思い出す

そうだ。私は本当につらくて、どうか死ぬ前に言葉が欲しいと…、声をかけて…

その初夏の日もこうして遠くで雷が鳴っていた

ばたばたと降る雨に長袖を濡らし、びゅうびゅうと吹く風に髪を遊ばせて

死にたい。と思った

死にたくない。と願った

 

私達は花に似ている

絢爛豪華な花ではないかもしれない、そこら辺の雑草だって一生懸命に咲いて、種を落とし、枯れて逝く

似ているどころか全く同じだ

当然に生まれてきたように、当然死んでいくのだ

何を成そうと何を産もうとこうして…

花は咲いて好かったか?そんなことを疑問に思う人はいない

生まれてきてよかったか?そう問うのは自分自身でしかないからだ

 

先生に言った言葉はうそじゃない。

私は生きていきたい。生きていけるところまで、行きたい。

だけれどこうして黒い雲に覆われた、死の匂いのする世界につられて、死にたくなってしまうの

それも本当なんだ

一緒に枯れていくならば

それは同じではないの

いいえ、違う、か

彼は精一杯咲いて、そして、死んでいったのだ

私はどうだ、そう問うて

納得がゆく答えを見出す迄生きて行くの。