遺言

一緒に生きたい

願わくば

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私が欲しかったのは痕だった

いびつで綺麗な痕

 

初めて開いた傷は、畑さんのために

破滅へ転がり落ちると解っていても、もうそうするしかできなかったの

何もかもが苦しくて、最早何が苦しいかもわからなくなって、

畑さんが私のことを見てくれる理由になるならなんでも良かったの

怖くてたまらなかったから薬飲んで腕を切った

朦朧としてたけど激痛と、開いた傷口の奥がすうと寒くなったのを覚えてる

瞬間も見れなくて電気消して常夜灯の灯りの中、薄闇に開いた傷を見、急いで明るくして写真を撮った

こんなことしても、と思いながらもメール書いたの

本当にごめんなさい…先生に看て欲しくて、閉じずに開いたままの傷にラップまいて包帯を封印するようにぐるぐる巻きにして寝た

朝、夢かと思った。夢だったらいいのにって

包帯を剥いだら昨晩より色んなものが迫り出し開ききった傷口に吐き気がした。私のものとは到底思えなくて

それでもお風呂に入らなくちゃいけなくて、滲みないかと怖々シャワーを浴びたけど、傷口に水が触れると鋭い痛みが奥まで響いた 嫌な痛みだった 遠ざけても時々飛ぶ雫が薄赤色になって白いタイルに零れてった さめざめ泣く様に

上がる前、冷たくした水を手で掬って傷口を濯いだ

体を拭くよりも先に、床をびちゃびちゃに濡らしながら、消毒した指でワセリンを塗ってラップと包帯をまいた 早く目に映らないようにしたかったしばい菌がつくのが怖かった

金曜日はせんせい、居なかったのかな、

土日も会えず、都合もあって、結局会えたのはだいぶ治ってからだった気がする

開いた傷の処置なんてわからず、とにかく毎日洗った方がいいというのは知っていたからお風呂入る度洗って包帯をまいた

寝ているとワセリンが溶けて、ラップを巻いているからかぶれて痒くて何度も目が覚めた 悪夢に魘されて。ラップが傷口にめり込むと痛みもした。それでも自分の傷を見るというのは悪いものじゃなくて、そうしている間は新しい傷を一切作ることも無くて。

周りの皮膚がだいぶピンクになってからせんせいに看てもらった。肉の色がちゃんと赤いから大丈夫だよと言われた。この頃からせんせいは敬語を使うようになったし会うこともなかなか出来なくなった

自業自得だけどどうしようもなくさみしくて、全て上手くいかなくて、混乱してもっと切った

その傷は関節のそばで屈伸の度開き出血も酷く、翌日せんせいに看てもらったら今から病院に行ってと言われてもう暗い中整形で縫ってもらった。

その時、2週間近く面倒を見ていた傷も一緒に縫われてしまった

それは、仕方のない、ことなのだけど

もし、この開いた傷が開いたまま残っていたなら、私は、畑さんのことも、私自身も許せた気がするんだ

大事大事に温めていたプレゼントを取り上げられた気持ちだった

誰も受け取ってくれない、厄介なプレゼントを、ならいっそ、私自身にぶちまけて、おめでとうと言ってやりたかった

私が愛してるからもういいじゃないか、って

 

愛されたくて、でもずっと愛されることもなくて、私は愛されない人間なんだと思った みんなが愛されるのは奇跡で、奇跡なんて滅多にないことなんだから、しょうがないじゃないか

でもせんせいはわたしを気にかけてくれて、唯一、先生の立場を超えて見てくれたから、しちゃいけない事だとわかってても、せんせいの興味があることならなんでもしないといけないと思った

それが間違ってても、私はそうすることにしか希望を見いだせなかった

先生にたくさん迷惑をかけたこと、しきれないほど後悔も反省もしてるから、私のことなんて忘れて善い先生になってくれたらと思う

と同時に私がせんせいの「人らしさ」を奪ったんだという優越感に浸りさえする

せんせいは、あの時、先生になったんだね…

 

かなしい。孤独に取り残されて泣いている私は消えて亡くなることはない それを癒してくれるのは、今もやっぱり、彼だ

あの時ぎりぎりの私を支えてくれた私自身である彼

すきだよ、ありがとうね

 

ねえ……何もかもが上手くいったかな

そうだといいな……

2020/10/03

2年前の明日の私へ

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