遺言

一緒に生きたい

匂いに纏わる想い

クナイプのハンドクリーム、さらっとした使い心地で好きなんだけど、色んなことを思い出してしまう。

一番は、2018年。秋から冬にかけて、肌寒さとくらい部屋 その時は入浴剤として使っていたから、やっぱりお風呂の匂い。部屋の電気を消して、キッチンだけの灯りで、お風呂にお湯が溜まるのを待つ あの冬、冷えたからだを温めるすべ、熱いお茶を飲むことと、お風呂に浸かることしかしらなかった

そのあとは、12月。学校を行き来してた時、スマホケースに小分けして入れた入浴剤。卒業間際の漠然とした苦しさと希死念慮…あの人にDMを送った。その辺のさみしい記憶

その次は、2019年。ハンドクリームを見つけて買った 彼女さんとのお泊まりの記憶。夜、ショッピングモールの記憶とメロンソーダドンキホーテ、お風呂。帰路、助手席で寝てしまった私に文句も言わずやさしくしてくれた、帰って静かなおうちに着いた時 彼女さん、ねりけしみたいな匂いって言ってた

そして、同じく12月。穴埋めで呼ばれたライブで。冷たい風がぴゅうぴゅう吹く冬の名古屋…暗いショーウィンドウ越しにきらきらひかる管楽器、クリスマスのイルミネーション。泊まったホテルで、寝る前手のひらに塗った。

 

お気に入りの好きな匂いだからと何度も塗っていると、昔の記憶は上書きされていってしまうのだろうか

そうして懐かしさばかりつもってくの?

なんだかさみしい。忘れる時は、忘れたことさえも忘れていくから

なにを失ったかわからないまま、得体の知れぬ感傷でせつなくなるのは、さみしい、いやだ……

だからあんまり塗れないの、塗りたくない

でも時々どんな匂いだったか確認したくなったりハンドクリームとして塗った時はいつも、昔のことを思い出している

とくにネロリの香りは……

 

M子さん。忌々しいのはあの最後の夜だけ

あの人は色んなことを教えてくれた ハーブティもクナイプも、天然石もそう。言葉も、だ

大切な人だった いろんなこと知ってて、教えてくれて

でもあの一晩で全て終わってしまった

いまもともだちだったら、

あの人が教えてくれた物事のうち琴線に触れたものを掬いとって心の奥にしまった

私も素敵だと思ったものを、今度は私が選んで、だいじなひとにもわけて、あげる。同じことを繰り返してるみたい。もしもいまもともだちだったら、だいじなひとができたこと、伝えられたのにな……

そしたらあの人は喜んでくれたに違いない

初めて会った日のお別れにくれた入浴剤がバニラとはちみつの香り。黄色いハンドクリームの、メッセージはEverything will be fine、きっとうまくいくよ、2016年2月26日。

だけどあの夜がなければ、言葉ではなんとでも言える、慰めや心配をどれだけしてくれても埋まらないさみしさと、それでも逢いに来てはくれない。何も要らないから、逢いに来て欲しい……、なんて思わなかった。

そしたら彼女さんにも会わなかったかもしれない

だから、

 

あの夜からお風呂は身体を温めるのに加えて、心を癒す、より特別なものになった。一人暮らしで蛇口から出たお湯でしかお湯はり出来なかったからしょっちゅう入れるものでもなかったし

それで、色んな入浴剤を試したんだ

ネロリの匂いは私が見つけたの

それにもたくさんの記憶が繋がっている

寒くて凍えそうな くらい夜も、さむいねって身を寄せ合うようなやわらかい冬も、どれもいとおしい