古川本舗は春が似合う。穏やかで白い、きれいな春、レースカーテンをやわらかに揺らす風、あるいは、黒の深いところにある春の夜
昔はそんなに好きじゃなかったんだけど、自分の好きなものがわかるほど愛おしくて堪らなくなる
空に落ちてく花弁をスローで撮ったみたいな
目の前に広がる無関係な街並みを、宙に舞い、見下ろすような
無重力の拡がり
人間は綺麗じゃなくてきれい
人間の器の中から、掛け離れたきれいなものを、見て、手に取ろうとする、あやうい眼差し
大事な人を慈しむ淋し気なそれ
細やかに書かれた言葉と儚くしたたかなメロディ
不安定な春によく合う
終わりの季節によく似合う
冬が死んで夏が生まれるまでのブランク
色水が沁みて滲んでくみたい