遺言

一緒に生きたい

抜歯をしました。

親知らず抜歯してきた。最初は日帰りで予約したものの、やっぱり怖くて、保険も降りるからと、前回同様一泊入院で。

前は教えられた覚えがないけど、今回はお薬手帳に貼ってくださいねと紙を貰ったので、鎮静剤の名前もわかった。ミダゾラム。2015年は、注射だった気がするけど、多分普通に点滴だったんだと思う。前は、注射器から薬が血管に入ると、腕の内側がひんやり涼しくなって、一瞬で落ちた。それが印象的で、今回もちょっと楽しみにしてた。起きたまま手術は絶対絶対絶対嫌なので、ちょっと寝不足気味でいったのもあり、恐怖よりはそっちの方が強かった。勿論痛かったらどうしようという不安はめちゃくちゃにあったけど。

これから大手術するの?と言わんばかりの装備。腕に血圧計。指先に、なんか機械。心電図のパッド3箇所。鼻に酸素チューブ。

「緊張してる?」

「それなりにしてます」

「心拍見てると、それほどには見えないけどね、大丈夫ですよ」

バレた。

「じゃあこれから眠くなるお薬点滴していきますね。ちょっと滲みますよ」

抗生剤の後、鎮静剤が接続される。腕の奥がジーンと痛む。

「滲みますか?」

「はい、ちょっと…」

薬が血管に入ると、あの爽快感は無かったけど、本当に瞬間的に、後ろに引っ張られるような、眠剤で落ちる時の、あの、強制的に突き落とすような感覚がした。けれどとても強烈。飲み薬と違って、どうやっても抗えない、抵抗しようにも呑まれる、凄まじい感覚。今回はちょっとだけ、まだ、まだ。と思って、足掻きは、した。したけど、30秒も持たなかった。あっという間に何もわからなくなる。

みんなが遠ざかってく。それだけ覚えてる

 

2時間は絶対安静だから、その間の排泄は、尿器で行うことになるので、なるべく済ませるようにしてね。

と言われ、勿論手術前にもその前から何度もガラガラ点滴引きずってトイレ行ったし、水も飲んでないし、それに尿意くらい我慢できる!と舐めてたが、結局看護師さんに尿器でとってもらったり…(非常にレアな体験をさせて戴きました。本当にすみません)

色々あった。あったけど、いちばん印象的だったのは。

 

「右腕でもいいですか?」

「ごめんね、先生がどうしても左がいいって言うから…」

「分かりました。お願いします」

直視出来なかった。

子供をあやす為か、腕置きに貼り付けられたすみっコぐらしのシールが可哀想に思えた。こんな、人に晒すにはあまりに汚いもので、おおい隠してしまうことが。惨めで後ろめたく、消えたくなった。不細工な腕の血管があるところを何度も揉まれ、うーん…えっと…という声をしばらく聞いているうちに、申し訳なくなってきて、腕を見た。

痛くない…?と訊かれて、大丈夫だと答えた

短く切りそろえられたつめさきが触れてるものがどう見ても同じヒトのものとは思えない。色も形も。右腕ならすぐ決まるのに、こんなだから、面倒をかけさせてしまって…

いつもの何倍もかけて、こんなのは初めて、やっと針を入れられる。その後は早かった。透明なテープで針を固定して、次に白いテープでチューブを固定して。

なんて優しい人なんだろうと思った。

「痛くない…?結構前の傷?」

「はい、昔ので、もう痛くないです」

恐る恐るという感じだった。触れてはいけない事柄だから、と言うよりは、そっと触れるような感じだった

家族?と訊かれたので、家族は大丈夫です。と答えた。退院しても大丈夫?、せっかく病院にいるんだから、言いづらいとは思うけど、なんでも言っていいからね。と

私は泣きそうになって、ひたすら大丈夫とありがとうございます、すみませんを繰り返した。

看護師さんは皆基本的に優しい存在だけど、触れたくないことには触れない人、あえて無視する人のほうが圧倒的に多い。だから私も何も言わないし、気を遣わせるのも悪いのでなるべく人目に触れないようにする

けど時々、こうして優しい人に会うと、死にたくなって、堪らなくなる

腕を縫ってもらってる時に涙を拭いてくれた看護師さんも、こんな自業自得に付き合わせてる最低な私に対して優しかった 痛いね、ごめんね、もうちょっとだから頑張ろうねと励まして貰う度、なぜ生きているのか分からなくなった

私は優しくされるべきではないし、手酷い非難を受けて然るべきだと思う 全て自業自得なのだから、当然だと。それなのに、他人に迷惑をかけて、異常性を明らかにしても優しくされることが、泣くほど嬉しくて寂しい。

 

本当は助けてほしい。と思った。

でも助けられるようなことじゃない

何一つ困っていない、恵まれた私が苦しい理由は何なんだろう

私が私であるからだとしたら、一体誰が助けられると言うの